一茶
おらが春
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おらが春 小林一茶
是爲白井一之老人所藏、小林一茶翁手書之俳諧巻、可愛玩者昔者鄭板橋、手書其集、鏤而公於世、翁之集亦己梓、可謂板橋以後第一人也、書之還之
戊寅二月 菱陀生
世々の變風元禄に至りて正雅やゝ定まりしよりこのかた、諸家の風調おの/\その得失によりて風姿極りなしといへども、かの向上の一路は踏たがふ事なく、ひばりのくちさかしく、蚯蚓の鈍くおかしげなる、又は蓬の直よかに、蕀のくねれるも、みな自然の風骨を具して、しかも正雅にもとらざるは、天の妙といふべし。其一妙を得たるしなぬの一茶、一期の風雅言行ともに洒落にして、焔王も腮をとき、獄卒も臍をかゝゆべし。しかはあれど、毛頭れいの向上の本意を失はず、實に近世獨歩の俳道人とせむか。こたび同國の一之、家に傳へし坊が遺稿をその儘上木して、追慕のこころざしを盡す。予も亦舊知己をわすれず、坊が命終の年、柏原の舊里を訪ひて往事をかたるに、あるひは泣、あるひはわらひてわかれぬ。其俤まぼろしに見へて、扨こそこの集の序者にたてるも、これ又因縁によれるべらし。
嘉永壬子春涅槃日
東都 瓢隱居逸淵
此一巻や、しなのゝ俳諧寺一茶なるものゝ草稿にして、風調洒々落々と杜をなす。こや寸毫も洒落にあらず、しかもよく佛籬祖室をうかがひ、さる法師がつれ/\もあやからず、一休白隱は猶しかなり、手ぶりはおのれが手ぶりにして、あが翁の細みをたどり、敢て世塵を厭ず、人情はたやるかたなし、惡我此外に何をかいはむ。
嘉永四辛の亥春彼岸仲日瓢界四山人しるす
かの岸もさくら咲日となりにけり
惟然坊は元禄の一畸人にして、一茶坊は今世の一奇人なり。そが發句のをかしみは、人々の口碑に殘りて、世のかたり草になるといへども、たゞに俳諧の皮肉にして此坊が本旨にはあらざるべし、中野のさと一之が家に秘めおける一巻物や、ざれ言に淋しみをふくみ、可笑みにあはれを盡して、人情世態無常觀想殘す處なし、もし百六十年のむかしに在て祖翁の過眼を得むには、惟然の兄とやのたまはんか、弟とや申し玉はむか
惺庵西馬
昔たんごの國普甲寺といふ所に、深く淨土を願ふ上人ありけり。としの始は世間祝ひ事してざゞめけば、我もせん迚、大卅日の夜、ひとりつかふ小法師に手紙したゝめ渡して、翌の曉にしか%\せよと、きといひをしへて、本堂へとまりにやりぬ。小法師は元日の旦、いまだ隅々は小闇きに、初鳥の聲とおなじくがばと起て、教へのごとく表門を丁々と敲けば、内よりいづこよりと問ふ時、西方彌陀佛より年始の使僧に候と答ふるよりはやく、上人裸足にておどり出て、門の扉を左右へさつと開て、小法師を上坐に稱して、きのふの手紙をとりて、うや/\しくいたゞきて讀でいはく、其世界は衆苦充滿に候間はやく吾國に來たるべし、聖衆出むかひしてまち入候とよみ終りて、おゝ/\と泣れけるとかや。此上人みづから工み拵へたる悲しみに、みづからなげきつゝ、初春の淨衣を絞りて、したゝる泪を見て祝ふとは、物に狂ふさまながら、俗人に對して無情を演るを禮とすると聞からに、佛門においては、いはひの骨張なるべけれ。それとはいさゝか替りて、おのれらは俗塵に埋れて世渡る境界ながら、鶴龜にたぐへての祝盡しも、厄拂ひの口上めきてそら%\しく思ふからに、から風の吹けばとぶ屑家は、くづ屋のあるべきやうに、門松立てず、煤はかず、雪の山路の曲り形りに、ことしの春もあなた任せになんむかへける
目出度さもちう位也おらが春 一茶
こぞの五月生れたる娘に一人前の雜煮膳を居へて
這へ笑へ二ツになるぞけさからは
文政二年正月一日
とし男つとむべき僕といふものもあらざれば
名代にわか水浴る烏かな 一茶
水江春色
すつぽんも時や作らん春の月 ゝ
山の月花 盗をてらし給ふ ゝ
善光寺堂前
灰猫のやうな柳もお花哉 ゝ
さくら/\と唄はれし老木哉 ゝ
櫻へと見えてじん%\端折哉 ゝ
初午
花の世を無官の狐鳴にけり ゝ
かくれ家や猫にもすへる二日灸 ゝ
葎からあんな胡蝶の生れけり ゝ
上野遠望
白壁の誹れながらかすみけり ゝ
苗代は菴のかざりに青みけり ゝ
花の陰あかの他人はなかりけり ゝ
二月十五日
小うるさい花が咲とて寐釋迦かな ゝ
み佛や寐ておはしても花と錢 ゝ
猫の子や秤にかゝりつゝじやれる 一茶
玉川
さらし布霞の足しに添(に)けり ゝ
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妙裏寺のあこ法師たか丸とて、ことし十一に成りけるが、三月七日の天うら/\とかすめるにめでゝ、くはんりうといふ、太くたくましき荒法師を供して、荒井坂といふ所にまかりて、芹薺など摘みて遊ぶ折から、飯綱おろしの雪解水黒けぶり立てゝ、動々と鳴りわたりて押し來たりしに、いかゞしたりけん、橋をふみはづして、だふりと落たり。や、あれ觀了たのむ/\と呼はりて、爰に頭出づると見れば、かしこに手を出しつゝ、たちまち其聲も蚊のなくやうに遠ざかると見るを、此世の名殘として、いたましいかな、逆巻く波にまきこまれて、かげも容も見へざりけり。あはやと村の人々打群りて、炬をかゝげてあちこち捜しけるに、一里ばかり川下の岩にはさまりてありけるをとり上て、さま%\介抱しけるに、むなしき袂より、蕗の薹三ツ四ツこぼれ出たるを見る(に)つけても、いつものごとくいそ/\かへりて、家内へのみやげのれうにとりしものならんと思ひやられて、鬼をひしぐ山人も皆々袖をぞ絞りける。とみに駕にのせて、初夜過ぐるころ寺にかき入れぬ。ちゝ母は今やおそしとかけ寄りて、一目見るよりよゝ/\と人目も耻ず大聲に泣ころびぬ。日ごろ人に無常をすゝむる境界も、其身に成りては、さすが恩愛のきづなに心のむすび目ほどけぬはことはりなりけり。旦には笑ひはやして門出したるを、夕には物いはぬ屍と成りてもどる、目もあてら(れ)ぬありさまにぞありける、しかるに九日野送なれば、おのれも棺の供につらなりぬ。
思ひきや下萌いそぐ若草を
野邊のけぶりになして見んとは 一茶
長々の月日雪の下にしのびたる蕗、蒲公(英)のたぐひ、やをら春吹風の時を得て、雪間/\をうれしげに首さしのべて、此世の明り見るやいなや、ほつりとつみ切らるゝ草の身になりなば、鷹丸法師の親のごとくかなしまざらめや、草木國土悉皆成佛とかや、かれらも佛生得たるものになん。
獨坐
おれとしてにらみくらする蛙哉 一茶
梅の花爰を盗めとさす月か ゝ
松島の小隅は暮て鳴く雲雀 ゝ
大猫の尻尾でなぶる小蝶かな ゝ
三月十七日ほしな詣
花ちるやとある木陰も小開帳 ゝ
通りぬけせよと垣から柳かな ゝ
餅腹をこなしがてらのつぎ穂哉 ゝ
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正月元日の夜の丑刻より始りて、打つゞき八日目/\に、天に音樂あると云ふこと、誰といふともなく云觸らして、いつ/\の夜そんぜうそこにてしかときゝしと人もあり、又吹風の迹なし事とけなすものもあり。其噂東西南北にはつと弘りぬ。つら/\思ふに、全く有りと信じがたく、又ひたすらなしとかたつけがたし、天地ふしぎのなせるわざにて、いにしへ甘露を降らせ、乙女の天下りて舞しためしなきにしもあらず、今此天下泰平に感じて、天上の人も腹鼓うち、俳優してたのしむならめ、それを聞得ざるは其身の罪の程によるべし。何にまれあしからぬとりさたなりと、三月十九日夕過より、誰かれ我菴につどひつゝ、おの/\息をこらして今や/\と待うち、夜はしらしら明て、窓の梅の木に一聲有り、
今の世も鳥はほけ經鳴にけり ゝ一茶
鶯の馳走に掃しかきねかな ゝ
馬までもはたご泊や春の雨 ゝ
雀の子そこのけ/\御馬が通る ゝ
かすむ日やしんかんとして大座敷 ゝ
横乘の馬のつゞくや夕雲雀 ゝ
京島原
入口のあいそになびく柳かな ゝ
藪村やまぐれあたりも梅の花 ゝ
正月や夜はよる迚うめの月 ゝ
茶屋むらの一夜にわきし櫻かな ゝ
翌/\と待たるゝうちが櫻かな 白飛
なぐさみにわらを打也夏の月 一茶
卯月八日
長の日をかはく間もなし誕生佛 ゝ
五月雨も中休みかよ今日は ゝ
病後
ちりの身とともにふは/\紙帳哉 ゝ
五月雨も仕廻のはらり/\かな ゝ
小座頭の天窓にかぶる扇かな ゝ
竹の子と品よく遊べ雀の子 ゝ
入梅晴や二軒並んで煤拂ひ ゝ
谷藤橋
這わたる橋の下よりほとゝぎす ゝ
はつ瓜を引とらまへて寐た子哉 ゝ
人形町
人形に茶を運ばせて門凉み ゝ
今迄は罰もあたらず晝寐蚊屋 ゝ
蚊がちらりほらり是から老が世ぞ ゝ
世がよくばも一ツ泊れ飯の蠅 ゝ
卯の花に一人きりの社かな ゝ
幽栖
蟲にまで尺とられけり此はしら ゝ
身一つすぐす迚山家のやもめの哀さは
おの(が)里仕舞てどこへ田植笠 ゝ
あつぱれの大わか竹ぞ見ぬうちに ゝ
花つむや扇をちよいとぼんのくぼ ゝ
としよりと見るや鳴蚊の耳のそば ゝ
戸隱山
居風呂へ流し込たる清水かな ゝ
此入りはどなたの菴ぞ苔清水 一茶
一つ蚊のだまつてしくり/\かな ゝ
その門に天窓用心ころもがえ ゝ
かくれ家の柱で麥を打れけり ゝ
越後女旅かけて商ひする哀さを
麥秋や子を負ひながらいはし賣 ゝ
笋や人の子なくば花咲ん ゝ
芝でした休み所や夏木立 ゝ
山苔も花さく世話はもちにけり ゝ
孑孑の天上したり三ケの月 ゝ
獨樂坊
寐所見る程は卯の花明りかな ゝ
法の山や蛇もうき世を捨衣 ゝ
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今年みちのくの方修行せんと、乞食袋首かけて、小風呂敷せなかに負たれば影法師はさながら西行らしく見えて殊勝なるに、心は雪と墨染の袖と思へば/\入梅晴のそらはづかしきに、今更すがた替へるもむつかしく、卯の花月十六日といふ日、久しく寐馴れたる菴をうしろになして、二三里も歩みしころ、細杖をつく/\思ふに、おのれすでに六十の坂登りつめたれば、一期の月も西山にかたぶく命、又ながらへて歸らんことも、白川の關をはる%\越える身なれば、十府の菅菰の十に一ツもおぼつかなしと、案じつゞくる程に、ほとんど心細くて、家々の鶏の時を告る聲もとつてかへせとよぶやうに聞へ、畠々の麥に風のそよ吹くも、誰ぞまねくごとく覺へて、行道もしきりにすゝまざれば、とある木陰に休らひて、痩脛さすりつゝ詠るに、柏原はあの山の外、雲のかゝれる下あたりなどおしはかられて、何となく名殘りおしさに
思ふまじ見まじとすれど我家かな 一茶
おなし心を
故郷に花もあらねどふむ足の
迹へ心を引くかすみかな ゝ
あまひらをおどろかさじと青麥に
ほどよき風の吹すぐるかな [note]
日々懈怠不惜寸陰
けふの日も棒ふり蟲よ翌も又 一茶
無限欲有限命
此風に不足いふなり夏坐敷 ゝ
起/\の欲目引張る青田哉 ゝ
心に思ふことを
故郷は蠅まで人をさしにけり ゝ
直き世や小錢程でも蓮の花 ゝ
松陰や寐蓙一ツの夏坐敷 ゝ
題童唄
三度掻て蜻蛉とまるや夏座敷 希杖
片息に成て逃入る螢かな 一茶
夕顏の花で涕かむおばゞかな ゝ
あついとてつらで手習した子哉 ゝ
大螢ゆらり/\と通りけり ゝ
田中川原如意湯に晝浴みして
なを暑し今來た山を寐て見れば ゝ
なむあみだ佛の方より鳴蚊かな ゝ
とべよ蚤同し事なら蓮の上 ゝ
かくれ家は蠅も小勢でくらしけり ゝ
ひいき鵜は又もから身で浮みけり ゝ
松の蝉どこまで鳴て晝になる ゝ
今迄は罰もあたらず晝寐蚊屋 ゝ
はなれ鵜が子のなく舟に戻りけり ゝ
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わが友魚淵といふ人の所に、天が下にたぐひなき牡丹咲きたりとて、いひつぎきゝ傳へて、界隈はさらなり、よそ國の人も足を勞して、わざ/\見に來るもの、日々多かりき。おのれもけふ通りがけに立より侍りけるに、五間ばかりに花園をしつらひ、雨覆ひの蔀など今樣めかしてりゝしく、しろ紅ゐ紫花のさま透間もなく開き揃ひたり、其中に黒と黄なるはいひしに違はず目をおどろかす程めづらしく妙なるが、心をしづめてふたゝび花のありさまを思ふに、ばさ/\として、何となく見すぼらしく、外の花にたくらぶれば、今を盛りのたをやめの側に、むなしき屍を粧ひ立て竝べおきたるやうにて、さら/\色つやなし。是主人のわざくれに紙もて作りて、葉がくれにくゝりつけて、人を化すにぞありける、されど腰かけ臺の價をむさぼるためにもあらで、たゞ日々の群集に酒茶つひやしてたのしむ主の心おもひやられて、しきりにをかしくなん。
紙屑もぼたん顏ぞよ葉がくれに 一茶
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蛙の野邊
爰らの子どもの戯に蛙を生ながら土に埋めて諷ふていはく、ひきどのゝお死なつた、おんばくもつてとぶらひに/\/\と、口々にはやして苡の葉を、彼うづめたる上に打かぶせて歸りぬ。しかるに本草綱目、車前草の異名を蝦蟇衣といふ、此國の俗がいろつ葉とよぶ、おのづからに和漢心をおなじくすといふべし、むかしはかばかりのざれごとさへいはれあるにや
卯の花もほろり/\や蟇の塚 一茶
此もの、諸越の仙人に飛行自在の術ををしへ、我朝天王寺には大たゝかひにゆゝしき武名を殘しき。それは昔々のことにして、今此治れる御代に隨ひ、ともに和らぎつゝ、夏の夕暮せどに莚を廣げて、福よ/\と呼べば、やがて隅の藪よりのさ/\這ひよりて、人と同じく凉む、其つら魂ひ一句いひたげにぞありける、さる物から長嘯子の蟲合に、歌の判者にゑらまれしは汝が生涯のほまれなるべし
ゆうぜんとして山を見る蛙哉 一茶
鶯にまかり出たよ引蟾 其角
思ふことだまつて居るか蟾 曲翠
一雫天窓なでけり引かへる 一茶
そんじよそこ爰と青田のひいき哉 ゝ
閨の蚊のぶんとばかりに燒れけり ゝ
鵜の眞似は鵜より上手な子ども哉 ゝ
寐竝んで遠夕立の評義かな ゝ
留守中も釣り放しなる紙帳かな ゝ
山番の爺が祈りし清水かな ゝ
蓮の葉に此世の露は曲りけり ゝ
狗に爰へ來よとや蝉の聲 ゝ
五月二十八日
とらが雨など輕んじて濡れにけり ゝ
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信濃の國墨坂といふ所に、中村なにがしといふ醫師ありけり、その父のわざくれに蛇のつるみたるを打殺したりけるが、其夜かくれ所のものづき/\痛み出して、つひにくされてころりとおちて死けるとかや。其子、親の業をつぎて三哲といふ。並み/\より勝れてふとくたくましき松茸のやうなるものもちたりけり、しかるに妻を迎へて、始て交りせんとする時、棒を立たるやうなるもの、たゞちにめそ/\と小さく、燈心に等しくふは/\として、今さらにふつと用立ぬものから、耻しくもどかしくいま/\しく、婦人を替たらましかば又幸あらんと、百人ばかりもとり替へ引かえ、妾をかゝえぬれど、みな/\前の通りなれば、狂氣の如くたゞいらちにいらちて、今は獨身にてくらしけり。かゝる事うぢ拾遺物語其外昔双紙などにばかりと思ひ捨侍りけるを、今目の前に見んとは、是かの蛇の執念に、其家血筋たやすならんと、人々ひそかに噂きけり、されば生とし活るもの、蚤虱にいたるまで、命おしきは人に同じからん、ましてつるみたるを殺すは罪深きわざなるべし。
魚どもや桶ともしらで門凉み 一茶
とくかすめとく/\かすめ放ち鳥 ゝ
彼岸の蚊釋迦のまねして喰れけり
大江丸
光俊卿
水ふねにうきてひれふる生け鯉の
命まつ間もせはしなの世や 俊頼卿
ふしつけしおどろが下に住むはへの
心おさなき身をいかにせん
淺間山
晝顏やぽつぽと燃る石ころへ 一茶
俳諧宗雲水に送る
鬼茨も添て見よ/\一凉み ゝ
古之爲關也將以禦暴今之爲關也將以爲暴
關守りの灸點はやる梅の花 一茶
人聲に子を引かくす女鹿かな ゝ
はつ螢其手はくはぬとびぶりや ゝ
蓮の花少曲るもうき世かな ゝ
隈界のなまけ所や木下闇 ゝ
大沼
萍の花からのらんあの雲へ ゝ
越後>
柿崎やしぶ/\鳴の閑古鳥 ゝ
江戸住居
青草も錢だけそよぐ門凉 ゝ
なでしこに二文が水を浴せけり ゝ
小金原
母馬が番して呑す清水かな ゝ
風あるをもつて尊とし雲の峯 ゝ
疫病神蚤も負せて流しけり ゝ
茂林寺
蝶々のふはりと飛んだ茶釜かな ゝ
櫻までわるくいはする藪蚊かな ゝ
蟻の道雲の峰よりつゞきけん ゝ
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高井郡六川郷六かはの里山の神の森にて、栗三ツ拾ひ來りて庭の小隅に埋め置たりしに、つや/\と芽を出して嬉しげなりけるを、東隣にて家に家をつくり足しぬるからに、月日の惠みとゞかず、雨露の潤ひうとければ、其としやをら一尺ばかり伸びけり、しかるを此國のならひ、冬に成れば東より西より南より北より、家の大雪をひたおとしに落しこむからに、恰も越の白山一夜に兀と涌出たるにひとしく、其山に薪水を運ぶ道を作るに、愛宕山の石壇のぼるがごとし、漸く二三月ごろ、おしなべて長閑なるに、隣々の脊戸畠は草木青みわたりて、花もまれ/\咲けるに、彼山はいまだ眞白妙に風冴えて、嚴寒を欺くけしきにて、やゝ卯月八日髪さけ蟲の歌を厠に張るころ、山鶯の折しり顏になけば、雪の消え口より見るに、哀なるかな、栗の木末は根際よりほきりと折れて仕まひぬ、人ならば直に無常の烟と立昇るべきを、古根よりそろ/\青葉吹て、かろうして一尺ばかり伸びけるを、又前のごとく、家の雪を落し込れて、ほきりと折れ、年々折れ/\て、ことし七年の星霜を累ぬれど、花咲き實入るちからなく、されど此世の縁盡ざれば、枯も果ずして、生涯一尺程にて生て居るといふばかりなるべし。我又さの通り、梅の魁に生れながら、茨の遲生へに地をせばめられつゝ、鬼ばゝ山の山おろしに吹折れ/\て、晴れ/\しき世界に芽を出す日は一日もなく、ことし五十七年、露の玉の緒の今まで切れざるもふしぎなり。しかるにおのれが不運を科なき草木に及すことの不便なりけり。
なでしこやまゝはゝ木々の日陰花 一茶
さるべき因縁ならんと思へば苦しみも平生とは成りぬ
朝夕に覆かぶさりし目の上の
辛夷も花の盛りなりけり 一茶
其引
子ばかりの布團に蘆の穗綿かな 山崎宗鑑
竹の雪はらふは風のまゝ子哉 正勝
うつくしきまゝ子の顏の蠅打ん 江雪
なげゝとて蚊さへ寐させぬまゝ子哉 未達
貞享四年卯歌仙
葛の繩目をゆるされし文
まゝ子をもいたはる嫁の名をとけて 芭蕉
祇園拾遺
下部ひそかに首理めける
繼母の又口はしる夜の雨 未達
おく五歌仙
山木かくれて草に血をぬる 芭蕉
わづかなる世をまゝ母に僞られ 風流
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小さき土鍋のありけるを我腹の子にとらせて、とらせざりければ、鶯の鳴をきゝてよめるとなん
鶯よなどさはなきそちやほしき
小鍋やほしき母や戀しき 貫之娘
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親のない子はどこでも知れる爪を咥へて門に立、と子どもらに唄はるゝも心細く、大かたの人交りもせずして、うらの畠に木萱など積たる片陰に跼りて、長の日をくらしぬ、我身ながらも哀なりけり
我と來て遊べや親のない雀 六才彌太郎
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昔、大和國立田村にむくつけき女ありて、まゝ子の咽を十日程ほしてより、飯を一椀見せびらかしていふやう、是をあの石地藏のたべたらんには、汝にもとらせんとあるに、まゝ子はひだるさたへがたく、石佛の袖にすがりて、しか%\ねがひけるに、ふしぎやな、石佛大口明て、むし/\喰ひ給ふに、さすがのまゝ母の角もほつきり折て、それより我うめる子とへだてなく、はごくみけるとなん、其地藏ぼさち今にありて、折々の供物たへざりけり
ぼた餅や藪の佛も春の風 一茶
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こぞの夏、竹植る日のころ、うき節茂きうき世に生れたる娘、おろかにしてものにさとかれどて名をさとゝよぶ。ことし誕生日祝ふころほひより、てうち/\あはゝ、天窓てん/\、かぶり/\ふりながら、おなじ子どもの風車といふものをもてるをしきりにほしがりてむづかれば、とみにとらせけるを、やがてむしや/\しやぶつて捨て、露程の執念なく、直に外の物に心うつりて、そこらにある茶碗を打破りつゝ、それもたゞちに倦て、障子のうす紙をめり/\むしるに、よくした/\とほむれば、誠と思ひきやら/\と笑ひて、ひたむしりにむしりぬ。心のうち一點の塵もなく、名月のきら/\しく清く見ゆれば、迹なき俳優見るやうに、なか/\心の皺を伸しぬ。又人の來りてわん/\はどこにといへば、犬に指し、かあ/\はと問へば、鳥にゆびさすさま、口もとより爪先まで、愛敬こぼれてあひらしく、いはゞ春の初草に胡蝶の戲るゝよりもやさしくなん覺え侍る。このおさな佛の守し給ひけん、夜の夕暮に持佛堂に蝋燭てらして、打ならせば、どこに居てもいそがはしく這ひよりて、さわらびのちいさき手を合せて、なんむ/\と唱ふ聲、しほらしくゆかしくなつかしく殊勝なり、それにつけてもおのれかしらにはいくらの霜をいたゞき、額にはしば/\波の寄せ來る齡にて、彌陀たのむすべもしらで、うか/\月日を費すこそ、二ツ子の手前もはづかしけれと思ふも、其坐を退けばはや地獄の種を蒔て、膝にむらがる蠅をにくみ、膳を巡る蚊をそしりつゝ、剩へ佛のいましめし酒を呑む。折から門に月さしていと凉しく、外にわらはべの踊の聲のすれば、たゞちに小椀投げ捨て、片いざりにいざり出て、聲を上げ手眞似してうれしげなるを見るにつけつゝ、いつしかかれをも振分髪のたけになしておどらせて見たらんには、廿五菩薩の管絃よりもはるかまさりて興あるわざならんと、我身につもる老を忘れてうさをなんはらしける。かく日すがら、をしかの角のつかの間も、手足をうごかさずといふことなくて、遊びつかれる物から、朝は日のたけるまで眠る、其内ばかり母は正月と思ひ、飯焚、そこら掃きかたづけて、團扇ひら/\汗をさまして、閨に泣聲のするを目の覺る相圖とさだめ、手かしこく抱き起して、うらの畠に尿やりて、乳房あてがへば、すは/\吸ひながら、むな板のあたりをうちたゝきて、にこ/\笑ひ顏をつくるに、母は長々胎内のくるしびも、日々襁褓の穢らしきもほと/\忘れて、衣のうらの玉を得たるやうになでさすりて、一入よろこぶありさまなりけらし。
蚤の跡かぞへながらに添乳かな 一茶
より/\思ひ寄せたる小兒をも遊び連にもと爰に集ぬ
柳からももんぐあゝあと出る子哉 ゝ
蓬莱になんむ/\といふ子哉 ゝ
年問へば片手出す子や更衣 一茶
小兒の行末を祝して
たのもしやてんつるてんの初袷 ゝ
名月を取てくれろとなく子哉 ゝ
子寶がきやら/\笑ふ榾火哉 ゝ
あこが餅/\とて並べけり ゝ
妹が子の脊負ふた形りや配餅 ゝ
餅花の木陰にてうちあはゝ哉 ゝ
凉風の吹く木へ縛る我子かな ゝ
わんぱくや縛られながらよぶ螢 ゝ
其引
あゝ立たひとり立たることし哉 貞徳
子にあくと申人には花もなし 芭蕉
袴着や子の草履とる親心 子堂
花といへも一ツいへやちいさい子 羅香
春雨や格子より出す童の手 東來
早乙女や子のなく方へ植てゆく 葉捨
折とても花の木の間のせがれ哉 其角
はしとり初たる日
鵙鳴や赤子の頬をすふ時に 同
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男にきらはれて親のもとに住みけるに、おのが子の初節句見たくも晝は人目茂ければ
去られたる門を夜見る幟かな よみ女しらず
子を思ふ實情さもと聞へて哀なり。猛きものゝふの心を和らぐるとはかゝる眞心をいふなるべし。いかなる鬼男なりとも、風の便りにもきゝなば、いかでかふたゝび呼び歸さざらめや。
所有畜類是レ世々ノ親族ナリとなん、親をしたひ子を慈む情、何ぞへだてのあるべきや。
人の親の鳥追けり雀の子 鬼貫
夏山や子にあらはれて鹿の鳴 五明
負て出て子にも鳴かする蛙哉 東陽
鹿の親笹吹く風にもどりけり 一茶
小夜しぐれなくは子のない鹿にがな ゝ
子をかくす藪の廻りや鳴雲雀 ゝ
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樂しみ極りて愁ひ起るはうき世のならひなれど、いまだたのしびも半ばならざる、千代の小松の二葉ばかりの笑ひ盛なる緑り子を、ね耳に水のおし來るごときあら/\しき痘の神に見込れつゝ、いま水膿のさなかなれば、やをら咲ける初花の泥雨にしほれたるに等しく、側に見る目さへくるしげにぞありける。是も二三日經たれば痘はかせぐちにて、雪解の峽土のほろ/\落るやうに瘡蓋といふもの取れば、祝ひはやして、さん俵法師といふを作りて、笹湯浴せる眞似かたして、神は送り出したれど、益々よはりて、きのふよりけふは頼みすくなく、終に六月二十一日の蕣の花と共に、此世をしぼみぬ。母は死顏にすがりてよゝ/\と泣もむべなるかな。この期に及んでは、行水のふたゝび歸らず、散る花の梢にもどらぬくひ事などゝ、あきらめ顏しても、思ひ切がたきは恩愛のきづななりけり。
露の世はつゆの世ながらさりながら 一茶
去四月十六日、みちのくにまからんと、善光寺まで歩みけるを、さはる事ありて止みぬるも、かゝる不幸あらんとて道祖神のとゞめ給ふならん
其引
子におくれたるころ
似た顏もあらば出て見ん一踊 落梧
母におくれたる子の哀さに
おさな子やひとり飯くふ秋の暮 尚白
娘を葬りける夜
夜の鶴土に蒲團も着せられず 其角
孫娘におくれて三月三日野外に遊ぶ
宿を出て雛忘れば桃の花 猿雖
娘身まかりけるに
十六夜や我身にしれと月の欠 杉風
猶子母に放れしころ
柄をなめて母尋るやぬり團扇 來山
愛子をうしなひて
春の夢氣の違はぬがうらめしい ゝ
子をうしなひて
蜻蛉釣りけふはどこまで行た事か かゞ千代
やんごとなき人々の歌も心に浮ぶまゝにふとしるし侍りぬ
讀人知らず
哀なり夜半に捨子の泣聲は
母に添寢の夢や見つらん
爲家卿
捨て行く親したふ子の片いざり
世に立かねて音こそなかるれ
兼輔卿
人の親の心は闇にあらねども
子を思ふ道に迷ひぬるかな
頌曰
未擧歩時先己到 未動舌時先説了
直饒著々在機先 更須知有向‐上竅
貰ふよりはやくうしなふ扇かな 一茶
俄川とんで見せけり鹿の親 ゝ
大寺や扇でしれし小僧の名 ゝ
曲者隱れてうかゞふ圖
あはれ蚊のついと古井に忍びけり ゝ
大山詣
四五間の木太刀をかつぐ袷かな ゝ
太郎冠者まがひに通る扇かな ゝ
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紫の里近きあたり、とある門に炭團程なる黒き巣鳥をとりて、籠伏せして有けるに、其夜親鳥らしく、夜すがら其家の上に鳴ける哀さに
子を思ふ闇やかはゆい/\と
聲を鳥の鳴あかすらん 一茶
盗人おのが古郷に隱れて縛れしに
業の鳥罠を巡るやむら時雨 ゝ
御成り場所に、鳥どもの餌蒔をしたふ不便さに
人眤き鶴よどちらに箭があたる ゝ
箭の下に母の乳を呑む鹿子かな 立志
さすがのさつ男も髻切りしは斯る折になんありける。
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おのれ住る郷は、おく信濃黒姫山のたら/\下りの小隅なれば、雪は夏きへて霜は秋降る物から、橘のからたちとなるのみならで、萬木千草上々國よりうつし植るに、こと%\く變じざるはなかりけり。
九輪草四五りん草で仕廻けり 一茶
鎮西八郎爲朝人礫うつ所に
時鳥蠅蟲めらもよつく聞け ゝ
鹿の子や横にくはへし萩の花 一茶
老翁岩に腰かけて一軸をさづくる圖に
我汝を待こと久しほとゝぎす ゝ
幽栖
我家に恰好鳥の鳴にけり ゝ
二三遍人をきよくつて行螢 ゝ
飛螢其手はくはぬくはぬとや ゝ
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成蹊子こぞの冬つひに不言人と成りしとなん。鶯笠のもとより此ころ申おこせたりしを
つの國の何を申も枯木立 ゝ
白笠を少しさますや木下陰 ゝ
まかり出たるは此藪の蟇にて候 ゝ
雲を吐く口つきしたり引蟇 ゝ
赤い葉の榮耀にちるや夏木立 ゝ
稻妻や一切づゝに世が直る ゝ
石川はくはらり稻妻さらり哉 ゝ
夕霧や馬の覺えし橋の穴 ゝ
秋風に歩て迯る螢かな ゝ
二番休
乳呑子の風よけに立かゝし哉 ゝ
連にはぐれて
一人通ると壁に書く秋の暮 ゝ
七月七日墓詣
一念佛申だけしく芒かな ゝ
木啄のやめて聞かよ夕木魚 ゝ
木つゝきが目利して居る菴かな ゝ
經堂
蟲の屁を指して笑ひ佛かな ゝ
得手ものゝ片足立や小田の雁 ゝ
山寺や 椽の上なる鹿の聲 ゝ
下手笛によつくきけとやしかの聲 一茶
茸狩のから手でもどる騒かな ゝ
さと女三十五日墓
秋風やむしりたがりし赤い花 ゝ
さをしかの喰こぼしけり萩の花 ゝ
我やうにどつさり寐たよ菊の花 ゝ
のらくらが遊びかげんの夜寒哉 ゝ
露の玉つまんで見たるわらは哉 ゝ
Issa Zenshu reads 縁.
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立よらば大木の下とて、大家には貧しき者の腰をかゞめておはむきいふもことはりになん。爰の諏訪宮に大きさ牛をかくす栗の古木ありて、うち見たる所は菓一ツもあらざりけるに、其下をゆきゝする人、日々とり得ざるはなかりけり
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十五夜は高井野梨本氏にありて
古郷の留守居も一人月見かな 一茶
月蝕皆既亥七刻右方ヨリ缺、子六刻甚ク丑ノ五刻左終
人數は月より先へ缺にけり 一茶
人の世は月もなやませ給ひけり ゝ
潜上に月の缺るを目利かな ゝ
酒盡てしんの坐につく月見かな ゝ
おのが味噌のみそ嗅を知らず
蕎麥國のたんを切つゝ月見かな ゝ
九月十六日正風院菊會
鍬さげて神農顏や菊の花 ゝ
菊園や歩きながらの小盃 ゝ
杖先で畫解するなりきくの花 ゝ
入道の大鉢巻できくの花 ゝ
下戸菴が疵なりこんな菊の花 ゝ
さと女笑顔して夢に見へけるまゝを
頬ぺたにあてなどしたる眞瓜かな ゝ
どう追れても人里を渡り鳥 ゝ
山雀の輪拔しながらわたりけり ゝ
鵙の聲かんにん袋きれたりな ゝ
蟷螂や五分の魂是見よと ゝ
高井野の高みに上りて
秋風や磁石にあてる古郷山 ゝ
行灯を松に釣して小夜砧 ゝ
行な雁往ばどつちも秋の暮 ゝ
若僧の扇面に
影法師に耻よ夜寒のむだ歩き ゝ
こんな村なんとの行か渡り鳥 白飛
藪陰やことし酒屋のことし酒 土英
老樂
子どもらを心でおがむ夜寒かな 一茶
こほろぎのとぶや唐箕のほこり先 一茶
小菊なら繩目の耻はなかるべし ゝ
戸迷ひせし折からに
小便所爰と馬よぶ夜寒かな ゝ
喧嘩すなあひみたがひの渡り鳥 ゝ
さをしかやゑひしてなめるけさの霜 ゝ
狼は糞ばかりでも寒かな ゝ
一つかみ塗樽拭ふ紅葉かな ゝ
むら千鳥そつと申せばばつと立 ゝ
炭の火や朝の祝儀の咳ばらひ ゝ
三介が敲く木魚もしぐれけり ゝ
木がらしやから呼されし按摩坊 ゝ
善光寺門前憐乞食
重箱の錢四五文や夕時雨 ゝ
大根引拍子にころり小僧かな ゝ
はつ雪の降り捨てある家尻哉 ゝ
木からしや折介歸る寒さ橋 ゝ
菜畠を通してくれる十夜哉 ゝ
雪ちるやおどけもいへぬしなの空 ゝ
能なしは罪も又なし冬籠 ゝ
強盗はやりければ
張番に菴とられけり夜の霜 ゝ
彼是といふも當坐ぞ雪佛 ゝ
お袋がお福手ちぎる指南哉 ゝ
餅搗が隣へ來たといふ子かな ゝ
餅花
かまけるな柳の枝にもちがなる ゝ
子のまねを親もするなり節季候 ゝ
東に下らんとして中途迄出たるに
椋鳥と人に呼るゝ寒かな ゝ
護持院原
木がらしや廿四文の遊女小屋 一茶
兩國橋
寒垢離にせなかの龍の披露かな ゝ
かも川をわたらじとちかひし人さへあるにひと度籠りし深山を下りてしら髪つむりを吹れつゝ名利の地に交る
恥かしやまかり出てとる江戸のとし ゝ
其迹は子どもの聲や鬼やらひ ゝ
小人閑居成不善
冬籠り惡く物喰を習けり ゝ
廿一日節分
一聲に此世の鬼は迯るよな ゝ
けふからは正月分ンぞ麥の色 ゝ
札納
梅の木や御祓箱を負ながら ゝ
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二十七日晴
坊守り朝とく起て飯を焚ける折から、東隣の園右衞門といふ者の餅搗なれば、例の通り來たるべし、冷てはあしかりなん、ほか/\湯けぶりのたつうち賞翫せよといふからに、今や/\と待にまちて、飯は氷りのごとく冷えて、餅はつひに來ずなりぬ
我門へ來さうにしたり配餅 一茶
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他力信心/\と一向に他力にちからを入れて頼み込み候輩は、つひに他力繩に縛れて、自力地獄の炎の中へほたんとおち入候、其次に、かゝるきたなき土凡夫をうつくしき黄金の膚になしくだされと、阿彌陀佛におし誂へに誂ばなしにしておいて、はや五體は佛染み成りたるやうに惡るすましなるも、自力の張本人たるべく候。問ていはく、いか樣に心得たらんには、御流儀に叶ひ侍りなん。答ていはく、別に小むづかしき子細は不存候、たゞ自力他力何のかのいふ芥もくたを、さらりとちくらが沖へ流して、さて後生の一大事は、其身を如來の御前に投出して、地獄なりとも、極樂なりとも、あなたさまの御はからひ次第あそばされくださりませと、御頼み申ばかりなり。如斯決定しての上には、なむあみだ佛といふ口の下より、慾の網をはるの野に、手長蜘の行ひして、人の目を霞め、世渡る雁のかりそめにも、我田へ水を引く盗み心をゆめ/\持べからず、しかる時は、あながち作り聲して念佛申に不及、ねがはずとも佛は守り玉ふべし、是則、當流の安心とは申なり、穴かしこ
五十七齡
ともかくもあなた任せのとしのくれ 一茶
文政二年十二月廿九日
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提供 哥座(うたくら および 哥座一座(うたくらいちざ)
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注)推奨環境:XPかビスタ。14か17インチ。Explorer 5.5以降。なお、
バイオなど一部製品やマックで、縦書きレイアウト他機能不可。
注)掲載データの全ては、哥座(うたくら)が韻文空間を際立たせるための美学研究用として、
基データの幾分かを省略、かつ縦書き表記変換したものである。よって文学としての精確度を
求める向きは、しかるべき専門文学データへ直接当たることをお薦めしたい。
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附記 「哥座(うたくら) および 哥座一座(うたくらいちざ)
について」
ふだんからなじみ深い裏手の山や前浜の海など、身近の自然やジブンの身体は、すでに了解済みの「空間」のなかに、疑うこともなく自明に存在している。この「こと」「もの」が生成流転している無意識空間は、万葉集はじめ、多くの歌仙の哥、俳諧、詩などの「韻文」により、ながい時の熟成を経て、身体空間や歴史、自然空間へと昇華されて、「わたくしたち」自身の空間システムの原型となり、具体的な血肉となってきたものだ。あるいは、わたくしたち自身の今の意識や身体をさえ紡ぎだしてくれているとも言へる。未来をも決定づけていくはづのこの無意識空間。ここでは、決して表にはでてこないで、そこへ秘匿胎蔵され続けている先験的時空座標を措定し、それを哥座(うたくら)と命名した。また、哥座一座(うたくらいちざ)は、この座標の自得のもとに、今日の情報テクノロジーの意味を問い直し、従来の芸術や学問のジャンルを越へ、時代と場所を越へ、随意に集合離散、活動できる超私的なパフォーマンサーたちの一期一会の関り合ひの「場」として創設した。方法論的には、途上で、輸入されてきた印・中・欧の抽象的美学概念に代へ、普段のことばや、あるがままの身体性を手がかりに、無文字時代から連続性の途切れずにある固有の法、ロゴスを抽出、その法を敷衍,発展化させていく。その際には、「俤」、「ひびき」、「にほひ」といった、先人から受け継いできた固有の概念による「付合」などさまざまな古典的手法を援用する。こうして「モノ」「コト」「コトバ」が具足する古くてあたらしい「座」を発掘し、それをミライへと継承していきたい。
哥座(うたくら) 二千八年九月
哥座 美学研究所
YU HASEGAWA
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