唱歌・童謡
--------------------------------------------------------------------
唱歌
まざあ・ぐうす
-------------------------------------------------------------------
小学唱歌集
目次
小学唱歌集 第一編 ( 明治十四年 )
第一 〜 第九
第十 〜 第十九
第二十 〜 第三十三
小学唱歌集 第一編 ( 明治十六年 )
第三十四 〜 第三十九
第四十 〜 第四十九
小学唱歌集 第三編 (明治十七年)
第五十 〜 第五十九
第六十 〜 第六十九
第七十 〜 第七十九
第八十 〜 第九十一
〔小学〕唱歌集 第一編 ( 明治14年3月)
第一 かをれ
一 かをれ。にほへ。そのふのさくら。
二 とまれ。やどれ。ちぐさのほたる。
三 まねけ。なびけ。野はらのすゝき。
四 なけよ。たてよ。かは瀬のちどり。
第二 春山
はるやまに。たつかすみ。
あきやまに。わたるきり。
さくらにも。もみぢにも。
きぬきする。こゝちして。
第三 あがれ
一 あがれ。/\。広野のひばり。
二 のぼれ。/\。川瀬の若鮎。
第四 いはへ
一 いはへ。/\。きみが代いはへ。
二 しげれ。/\。ふたばの小松。
第五 千代に
一 ちよに。/\。千代ませきみは。
二 いませ/\。わが君ちよに。
第六 和歌の浦
わかの浦わに。夕しほみちくれば。
きしのむら鶴。あし辺に鳴わたる。
第七 春は花見
一 はるは。はな見。
みよし野。おむろ。
二 あきは。つきみ。
さらしな。をぐら。
第八 鶯
一 うぐひす。きなけ。
うめさく。そのに。
二 かりがね。わたれ。
霧たつ。そらに。
第九 野辺に
一 野辺に。なびく。ちぐさは。
四方の。民の。まごゝろ。
二 はまに。あまる。まさごは。
君が。みよの。かずなり。
第十 春風
一 春風。そよふく。やよひのあした。
あき風。みにしむ。はつきのゆふべ
二 弥生は。野山の。はなさくさかり。
はつきは。みそらの。月すむ夜ごろ。
第十一 桜紅葉
一 春見に。ゆきませ。芳野の桜。
あきみて。つげませ。龍田のもみぢ。
二 よし野は。さくらの。花さくみやま。
たちたは。紅葉の。ちりしくながれ。
第十二 花さく春
一 花さく。はるの。あしたのけしき。
かをる。雲の。たつこゝちして。
二 あき萩。をばな。はなさきみだれ。
もとも。末も。露みちにけり。
第十三 見わたせば
一 見わたせば。あをやなぎ。花桜。
こきまぜて。みやこには。
みちもせに春の錦をぞ。
さほひめのおりなして。
ふるあめにそめにける。
二 みわたせばやまべには。
をのへにもふもとにも。
うすきこき。もみぢ葉の。
あきの錦をぞ。たつたびめ。
おりかけてつゆ霜に。
さらしける
第十四 松の木蔭
一 松のこかげに。たちよれば。
ちとせのみどりぞ。身にはしむ。
梅がえかざしに。さしつれば。
はるの雪こそ。ふりかゝれ。
二 うめのはながさ。さしつれば。
かしらに春の。ゆきつもり。
鶴のけごろも。かさぬれば。
あきの霜こそ。身にはおけ。
第十五 春のやよひ
一 春のやよひの。あけぼのに。
四方のやまべを。見わたせば。
はなざかりかも。しらくもの。
かゝらぬみねこそ。なかりけれ。
二 はなたちばなも。にほふなり。
軒のあやめも。かをるなり。
ゆふぐれさまの。さみだれに。
やまほとゝぎす。なのるなり。
三 秋のはじめに。なりぬれば。
ことしもなかばは。すぎにけり。
わがよふけゆく。月かげの。
かたぶく見るこそ。あはれなれ。
四 冬の夜さむの。あさぼらけ。
ちぎりし山路は。ゆきふかし。
こゝろのあとは。つかねども。
おもひやるこそ。あはれなれ。
第十六 わが日の本
一 わがひのもとの。あさぼらけ。
かすめる日かげ。あふぎみて。
もろこし人も。高麗びとも。
春たつけふをば。しりぬべし。
二 雪間にさけぶ。ほとゝぎす。
かきねににほふ。うつぎばな。
夏来にけりと。あめつちに。
あらそひつぐる。花ととり。
三 きぬたのひゞき。身にしみて。
とこよのかりも。わたるなり。
やまともろこし。おしなべて。
おなじあはれの。あきの風。
四 まどうつあられ。にはのしも。
ふもとのおちば。みねのゆき。
みやこのうちも。やまざとも。
ひとつにさゆる。ふゆのそら。
第十七 蝶々
一 てふ/\てふ/\。菜の葉にとまれ。
なのはにあいたら。桜にとまれ。
さくらの花の。さかゆる御代に。
とまれよあそべ。あそべよとまれ。
二 おきよ/\。ねぐらのすゞめ。
朝日のひかりの。さしこぬさきに。
ねぐらをいでゝ。こずゑにとまり。
あそべよすゞめ。うたへよすゞめ。
第十八 うつくしき
一 うつくしき。わが子やいづこ。
うつくしき。わがかみの子は。
ゆみとりて。君のみさきに。
いさみたちて。わかれゆきにけり。
二 うつくしき。わがこやいづこ。
うつくしき。わがなかのこは。
太刀帯て。君のみもとに。
いさみたちて。わかれゆきにけり。
三 うつくしき。わがこやいづこ。
うつくしき。わがすゑのこは。
ほことりて。きみのみあとに。
いさみたちて。わかれゆきにけり。
第十九 閨の板戸
ねやのいたどの。あけゆく空に。
あさ日のかげの。さしそめぬれば。
ねぐらをいづる。百八十鳥は。
霞のうちに。友よびかはし。
夢みるてふも。とくおきいでゝ。
むれつゝ花に。まひあそぶなり。
あさいねする身の。そのおこたりを。
いさむるさまなる。春のあけぼの。
第二十 蛍
一 ほたるのひかり。まどのゆき。
書よむつき日。かさねつゝ。
いつしか年も。すぎのとを。
あけてぞけさは。わかれゆく。
二 とまるもゆくも。かぎりとて。
かたみにおもふちよろづの。
こゝろのはしをひとことに。
さきくとばかり。うたふなり。
三 つくしのきはみ。みちのおく。
うみやまとほく。へだつとも。
そのまごゝろは。へだてなく。
ひとつにつくせ。くにのため。
四 千島のおくも。おきなはも。
やしまのうちの。まもりなり。
いたらんくにに。いさをしく。
つとめよわがせ。つつがなく。
第二十一 若紫
一 わかむらさきの。めもはるかなる。武蔵野の。
かすみのおく。わけつゝつむ。初若菜。
二 若菜はなにぞ。すゞしろすゞな。ほとけの座。
はこべらせり。なづなに五行。なゝつなり。
三 なゝつの宝。それよりことに。得がたきは。
雪消のひま。尋ねてつむ。わかななり。
第二十二 ねむれよ子
一 ねむれよ子。よくねるちごは。ちゝのみの
父のおほせや。まもるらん。ねむれよ子。
二 ねむれよ子。よくねるちごは。はゝそばの。
母のなさけや。したふらん。ねむれよこ。
三 ねむれよこ。よくねておきて。ちゝはゝの。
かはらぬみ顔。をがみませ。ねむれよこ。
第二十三 君が代
一 君が代は。ちよにやちよに。さゞれ
いしの。巌となりて。こけのむす
まで。うごきなく。常磐かきはに。
かぎりもあらじ。
二 きみがよは。千尋の底の。さゞれ
いしの。鵜のゐる磯と。あらはるゝ
まで。かぎりなき。みよの栄を。
ほぎたてまつる。
第二十四 思ひいづれば
一 おもひいづれば。三年のむかし。
わかれしその日。わがちゝはゝの。
かしらなでつゝ。まさきくあれと。
いひしおもわの。したはしきかな。
二 あしたになれば。かどおしひらき。
日数よみつゝ。ちゝまちまさむ。
わがおもひごは。ことなしはてゝ。
はやいつしかも。かへり来なんと。
三 ゆふべになれば。床うちはらひ。
およびをりつゝ。母まちまさん。
わがおもひごは。事なしはてゝ。
はやいつしかも。かへりこなんと。
四 あしたになれば。かどおしひらき。
ゆふべになれば。とこうちはらひ。
父まちまさん。母まちまさむ。
はやく帰らん。もとの国べに。
第二十五 薫りにしらるゝ
一 かをりにしらるゝ。花さく御園。
霞にかくるゝ。鳥なくはやし。
君が代いはひて。幾春までも。
かをれや/\。うたへやうたへ。
二 つきかげてりそふ。野中の清水。
もみぢばにほへる。外山のふもと。
きみが代たえせず。いく秋までも。
てらせや/\にほへやにほへ。
第二十六 隅田川
一 すみだがはらの。あさぼらけ。
雲もかすみも。かをるなり。
水のまに/\。ふねうけて。
花にあそばむ。ちらぬまに。
二 隅田川原の。あきの夜は。
水もみそらも。すみわたる。
かぜのまに/\。ふねうけて。
月にあそばん。夜もすがら。
三 すみだがはらの。ふゆのそら。
よは白妙に。うづもれて。
木々のこと/゛\。はなさきぬ。
ゆきにあそばん。消ぬまに。
第二十七 富士山
一 ふもとに雲ぞ。かゝりける。
高嶺にゆきぞ。つもりたる。
はだへは雪。ころもはくも。
そのゆきくもを。よそひたる。
ふじてふやまの。見わたしに。
しくものもなし。にるもなし。
二 外国人も。あふぐなり。
わがくに人も。ほこるなり。
照る日のかげ。そらゆくつき。
つきひとともに。かがやきて。
冨士てふ山の。みわたしに。
しくものもなし。にるもなし。
第二十八 おぼろ
一 おぼろににほふ。夕づき夜。
さかりににほふ。もゝさくら。
のどかにて。のどけき御代の。楽しみは。
花さくかげの。このまとゐ。
このうたげ。
二 千草にすだく。むしの声。
をぎの葉そよぐ。風のおと。
身にしみて。眼にみる物も。きく物も。
あはれをそふる。あきの夜や。
つきのよや。
第二十九 雨露
一 雨露におほみやは。あれはてにけり。
みめぐみに。民草は。うるほひにけり。
かくてこそ。今の世も。かまどのけぶり。
み空にも。あまるまで。たちみちぬらめ。
二 飢ゑこゞえ。なきまどふ。民もやあると。
身にかへて。かしこくもおもほすあまり。
あられうつ。冬の夜に。ぬぎたまはせる。
大御衣の。あつきその。御こゝろあはれ。
第三十 玉の宮居
一 玉のみやゐは。あれはてゝ。
雨さへ露さへ。いとしげゝれど。
民のかまどの。にぎはひは。
たつ烟にぞ。あらはれにける。
二 冬の夜さむの。月さえて。
隙もるかぜさへ。身をきるばかり。
民をおもほす。みこゝろに。
大御衣や。ぬがせたまひし。
第三十一 大和撫子
一 やまとなでしこ。さま/゛\に。
おのがむき/\。さきぬとも。
おほしたてゝし。ちゝはゝの。
底のをしへに。たがふなよ。
二 野辺の千草の。いろ/\に。
おのがさま/゛\。さきぬとも。
生したてゝし。あめつちの。
つゆのめぐみを。わするなよ。
第三十二 五常の歌
一 野辺のくさ木も。雨露の。
めぐみにそだつ。さまみれば。
仁てふものは。よのなかの。
ひとのこゝろの。命なり。
二 飛騨の工が。うつ墨に。
曲もなほる。さまみれば。
義といふものは。世の中の。
人のこゝろの。条理なり。
三 成像ほかに。あらはれて。
謹慎みたる。さまみれば。
礼てふものは。世の中の。
ひとのこゝろの。掟なり。
四 神の蔵せる。秘事も。
さとり得らるゝ。さまみれば。
智といふものは。世の中の。
人のこゝろの。宝なり。
五 月日と共に。あめつちの。
循環たがはぬ。さまみれば。
信てふものは。世の中の。
人のこゝろの守りなり。
第三十三 五倫の歌
父子親あり。君臣義あり。
夫婦別あり。長幼序あり。
朋友信あり。
〔小学〕唱歌集 第二編 ( 明治16年3月)
第三十四 鳥の声
一 とりのこえ。きぎのはなのべにみちて
かすみけりなのどかなるはるのひや
二 むしのこゑつゆのたまのべにみちて
ゆくもゆかれずきよらなるつきのよや
第三十五 霞か雲か
一 かすみかくもかはたゆきかとばかりにほふ
そのはなざかりももとりさへもうたふなり
二 かすみははなをへだつれどへだてぬともと
きてみるばかりうれしきことはよにもなし
三 かすみてそれとみえねどもなくうぐひすに
さそはれつつもいつしかきぬるはなのかげ
第三十六 年たつけさ
一 としたつけさの。そのにぎはひは。
みやこもひなも。へだてなく。
毬歌うたひつ。羽子つきかはしつ。
こゝろ/゛\に。うちつれだちて。
かしこもこゝも。あそびゆくなり。
都も鄙も。あそぶなり。
二 のどけき春に。はやなりぬれば。
わかきもおいも。わかちなく。
さく花かざしつ。なく鳥きゝつゝ。
こゝろ/゛\に。うちつれだちて。
やまべに野辺に。あそびゆくなり。
山辺に野辺に。あそぶなり
三 ことしもいつか。なかばは過ぎて。
秋風さむく。身にぞしむ。
すゞむし松虫。はたおる虫さへ。
ながき夜すがら。なくねをきけば。
われらもおいの。いたらぬいたらぬさきに。
学の道に。いそしまむ。
四 千代ながづきの。月たちぬれば。
まがきのうちと。へだてなく。
しら菊はなさき。紅葉かゞやく。
菊ともみぢを。かざしにさして。
君が代いはへ。八千代もちよも。
わが君いはへ。よろづ世も。
第三十七 かすめる空
一 かすめるそらに。雨ふれば。
草木もともに。うるほひぬ。
わらへるはな。にほへるやま。
類なの。ながめかな。
二 山の端はれて。つき清く。
ちさとのくまも。かくれなし。
きらめく露。なくなるむし。
たぐひなの。秋の夜や。
第三十八 燕
一 こよや/\。こよつばくらめ。
おやもひなも。ひねもすかたり。
たのしみし。その巣をいでゝ。
とほき国辺に。たちわかるとも。
帰り来よや。わがやどり。
かへりこよや。つばくらめ。
二 来なけ/\。やまほとゝきす。
われもひとも。夜はよもすがら。
いねもせず。深山をいでゝ。
都のそらに。なけほとゝぎす。
なのれ/\。わがやどに。
きなけ/\。ほとゝぎす。
第三十九 鏡なす
一 かゞみなす。水もみどりの。かげ
うつる。柳の糸の。枝をたれ。
気霽ては。風新柳の髪を梳り。
氷消ては。浪旧苔の。髭を洗ふとかや。
げにおもしろの。景色やな。
けにおもしろの。けしきやな。
二 降る雪に。樵夫のみちも。うも
れけり。みやまのおくの。夕まぐれ。
かざせる笠には。影もなき。月をやどし。
担へる柴には。かをらざる。花をたをるとかや。
げにおもしろの。けしきやな。
げにおもしろの。景色やな。
第四十 岩もる水
いはもる水も。松ふく風も。
しらべをそふる。つま琴の音や。
あれおもしろの。こよひの月や。
こゝろにかゝる。雲霧もなし。
第四十一 岸の桜
一 岸の桜の。はなさくさかりは。
水のそこにも。白雲かゝれり。
すみだの川の。かはのせくだし。
漕やをぶね。花にうかれて。
雲にさをさし。霞にながして。
こぐや雲ゐに。かすみの海に。
二 秋のもなかの。さやけき月夜は。
水のそこにも。白玉しづめり。
隅田の川の。かはの瀬のぼし。
こぐや小舟。つきにうかれて。
棹のしづくの。光もさながら。
真玉しら玉。しら玉またま。
第四十二 遊猟
一 さながら山も。くづるばかりに。
をのへにとよむ。矢玉のひゞき。
神てふ虎も。てどりにしつゝ。
いさみにいさむ。益荒雄の徒。
二 葦毛の馬に。しづ鞍おきて。
あづさの真弓。手にとりしばり。
みかりたゝすは。ますらをなれや。
美猟たゝせる。そのいさましさ。
第四十三 みたにの奥
一 みたにのおくの。花鳥あはれ。
うづまく雲の。かぐはしのよや。
たのしき春に。あふさか山の。
岩根によせて。君が代うたへ。
二 たり穂の稲の。ゆふ風あはれ。
よせくる浪の。にぎはしのよや。
ゆたけき秋に。あふさか山の。
巌によせて。君が代いはへ。
第四十四 皇御国
一 すめらみくにの。ものゝふは。
いかなる事をか。つとむべき。
たゞ身に持てる。まごゝろを。
君と親とに。つくすまで。
二 皇御国の。をのこらは。
たわまずをれぬ。こゝろもて。
世のなりはひを。つとめなし。
くにと民とを。とますべし。
第四十五 栄行く御代
一 さかゆく御代に。うまれしも。おもへば
神の。めぐみなり。いざや児等。神の恵を。
ゆめなわすれそ。ゆめなわすれそ。
ゆめなわすれそ。時の間も。いざやくら。
神の恵を。ゆめなわすれそ。ゆめなわすれそ。
ゆめなわすれそ。ときのまも。
二 恵も深き。かみがきの。みまへの
さかき。とりもちて。ちはやぶる。
神の御前に。うたひまはまし。うたひまはまし。
うたひまはまし。夜もすがら。ちはやぶる。
神の御前に。うたひまはまし。うたひまはまし。
うたひまはまし。よもすがら。
第四十六 五日の風
一 いつかの風も。とをかの雨も。
時に順ふ。わがきみが世や。
にしの国より。高麗百済より。
よりくる人も。御代いはふなり。
二 豊葦原の。みづ穂のくには。
ちよよろづ世も。うごきなき国。
わが君が代に。ちよよろづ代も。
動きなき御代。いはへもろ人。
第四十七 天津日嗣
一 あまつ日つぎのみさかえは。
あめつちの共。きはみなし。
わがひのもとの。みひかりは。
月日とゝもに。かゞやかん。
二 葦原の。ちいほあき。瑞穂
のくには。日の御子の。
きみとますべき。ところぞと。
神のみよゝり。さだまれり。
第四十八 太平の曲
一 ゆはづのさわぎ。飛火のけぶり。
いつしかたえて。をさまる御世は。
あめつちさへも。とゞろくばかり。
万代までと。君が代いはへ。
二 たひらのみやこ。百敷の宮。
みあとになして。むさしの国に。
しづまりましぬ。年は三千とせ。
代は百二十。御功績あふげ。
第四十九 みてらの鐘の音
一 みてらの鐘のね。月よりおつる。
ふみよむ燈火。かすかになりて。
一二三四五六七八。
二 月影かたぶき。霜さえわたり。
ねよとの鐘のね。枕にひゞく。
一二三四五六七八。
三 漁火しめりて。霜天にみち。
姑蘇城外なる。鐘かもきこゆ。
一二三四五六七八。
〔小学〕唱歌集 第三編
(明治17年3月。歌詞のみ掲載。振り仮名省略)
第五十 やよ御民
一 やよみたみ。稲をうゑ。井の
水たゝへ。君が代は。腹つゞみ
うち。身をいはへ。
二 やよ御民。萱をかり。わが
家をふきて。君が代は。雨露
しのぎ。世をわたれ。
第五十一 春の夜
一 かすみにきゆる。かりがね
も。かすかにひゞく。笛の
音も。をさまる御代の。
しらべにて。たのしき
はるの。ゆふぐれや。
ともし火とりて。むかし
のひとの。あそびし
夜半も。かゝりけん。
世はさま/゛\と。おもひし
を。むかしもいまも。
かくさきにほふ。
はなにはそむく。
人ぞなき。
第五十二 なみ風
一 浪かぜさかまく。あをうな
ばらに。暗路をたどれる。
ふれ人あはれ。やみ路を
たどれる。船人あはれ。命と
たのむは。棹かぢなれや。/\
二 虎さへうそぶく。荒山中に。
やみぢにまよへる。たび人
あはれ。やみぢにまよへる。
旅人あはれ。いのちとたのむは。
ともし火なれや。/\
第五十三 あふげば尊し
一 あふげばたふとし。わが師の恩。
教の庭にも。はやいくとせ。
おもへばいと疾し。このとし月。
今こそわかれめ。いざゝらば。
二 互にむつみし。日ごろの恩。
わかるゝ後にも。やよわするな。
身をたて名をあげ。やよはげめよ。
いまこそわかれめ。いざゝらば。
三 朝ゆふなれにし。まなびの窓。
ほたるのともし火。つむ白雪。
わするゝまぞなき。ゆくとし月。
今こそわかれめ。いざゝらば。
第五十四 雲
一 瞬間には。やまをおほひ。
うちみるひまにも。海をわたる。
雲てふものこそ。くすしくありけれ。
くもよ/\。雨とも霧とも。みるまに
変りて。あやしく奇きは。雲よ/\。
二 ゆふ日にいろどる。橋をわたし。
みそらに声せぬ。浪をおこす。
雲てふものこそ。奇しくありけれ。
雲よ/\。なきかとおもへば。おほ空
おほひて。あやしく奇きは。雲よ/\。
第五十五 寧楽の都
一 奈良のみやこの。そのむかし。
みやびつくして。宮びとの。
遊びましけん。龍田川原の。紅葉。
たつたがはらのもみぢば。今もにほふ。
ちしほの色に。残るかたみは。
千代もくちせず。今かいまかと。
君をまつらん。その紅葉。
二 ふるきみやこの。そのむかし。
桜かざして。おほきみの。
あそびましけん。滋賀の
花園。はなさき。しがの花
ぞの。花さき。今もにほふ。
色香をそへて。ゑめる姿は。
ちよもかはらす。今やいまやと。
行幸まつらん。その花は。
第五十六 才女
一 かきながせる。筆の
あやに。そめしむらさき。
世々あせず。ゆかりのいろ。
ことばのはな。たぐひも
あらじ。そのいさを。
二 まきあげたる。小簾の
ひまに。君のこゝろも。
しら雪や。廬山の峯。
遺愛のかね。めにみるごとき。
その風情。
第五十七 母のおもひ
一 はゝのおもひは。空にみち。
ゆくへもしらず。はてもなし。
つきの桂を。たをりてぞ。
家の風をば。ふかせつる。
あふげ/\。母のみいさを。
二 母のなさけの。撫子よ。露
なわすれそ。めぐみをば。
家をうつすも。そだて草。
機をきるさへ。教へぐさ。
したへ/\。母のなさけを。
第五十八 めぐれる車
一 めぐれる車。ながるゝ水。われらは
いこへど。やむ間なし。
二 岩根をつたふ。しづくの水。積れば
つひに。海となる。
第五十九 墳墓
一 松ふく風は。こゝろにしみて。
おもへばあはれ。わがなき父の。
奥津城どころ。
二 浅茅が露に。むしのねかれて。
おもへばあはれ。わがなき母の。
おくつきどころ。
三 苔むす墳は。文字さへ消えて。
おもへばあはれ。いづれのひとの。
なきあとなれや。
第六十 秋の夕暮
一 花や紅葉も。およぶものかは。
浦のとまやの。秋のゆふぐれ。
二 こゝろなき身も。あはれしれとや。
鴫たつ沢の。あきの夕暮。
三 あはれさびしや。色はなけれど。
槙たつ山の。あきの夕ぐれ。
第六十一 古戦場
一 屍は朽て。骨となり。刃はをれて。
しもむすぶ。今はた靡く。旗薄。
皷のおとか。まつ風か。
二 人影みえず。風さむし。蓬はかれて。
霜しろし。命を捨し。真荒雄が。
その名は千代。も朽せじな。
第六十二 秋艸
一 さきのこりたる。あさがほや。
命とたのむ。つゆも浅ぢの。
あさがほや。
二 あや錦おる。はぎがはな。
たまもいろなる。霜ぞこぼるゝ。
萩がはな。
三 たれまねくらん。はなすゝき。
風もふかぬに。露ぞみだるゝ。
はなすゝき。
第六十三 富士筑波
一 駿河なる。ふじの高嶺を。
あふぎても。動かぬ御代は。
しられけり。
二 つくばねの。このもかの面も。
てらすなる。みよのひかりぞ。
ありがたき。
第六十四 園生の梅
一 そのふの梅の。追風に。わがすむ山も。
春めきぬ。門田の雪も。むら消て。
若菜つむべく。野はなりぬ。
二 弥生のそらに。野辺みれば。菫の
花さく。山みれば。雪かあらぬか。そこ
かしこ。桜の花も。さきそめぬ。
第六十五 橘
一 ちゝの実の。父やもうゑし。
なつかしき。かにこそにほへ。
よにふるさとの。花の橘。
二 はゝそばの。母やもうゑし。
したはしき。かをりぞすなる。
しのぶの里の。花の橘。
第六十六 四季の月
一 さきにほふ。やまのさくらの。
花のうへに。霞みていでし。
はるのよの月。
二 雨すぎし。庭の草葉の。
つゆのうへに。しばしはやどる。
夏の夜の月。
三 みるひとの。こゝろ/\に。
まかせおきて。高嶺にすめる。
あきのよの月。
四 水鳥の。声も身にしむ。
いけの面に。さながらこほる。
冬のよの月。
第六十七 白蓮白菊
一 泥のうちより。ぬけいでゝ。濁りにしまぬ。
はな蓮。月のひかりか。ひるすごく。
霜とさゆれば。夏さむし。乱るゝ露は。
たまとみえ。かをれる風は。身にぞしむ。
氷のすがた。雪のいろ。つゆなけがしそ。
世のちりに。
二 草木もかれし園の中。雪にも色は。
まさりぐさ。いたゞく霜は。身をよそひ。
さえゆく月は。香ににほふ。霜はくすりと。
きくの水。梅はみさをの。おのがとも。
暗の夜はさへ。てらすなり。東籬の
もとに。書やみん。/\。
第六十八 学び
一 まなびはわが身の。光りとなり。
富貴も。栄花も。こゝろのまゝ。
二 驕りはわが身の。仇とぞなる。
努々ゆるすな。こゝろの駒。
三 学びはわが身の。ひかりなり。
驕りはわが身の。仇とぞなる。
第六十九 小枝
一 さえだにやどれる。小鳥さへ。
礼はしる。道をもならひし。
その人を。わするなよ。
二 吾家にかひぬる。犬さへも。
恩はいる。君にもつかふる。
大丈夫よ。身をつくせ。
第七十 船子
一 やよふな子。こげ船を。
こげよ/\。/\/\。
やよふな子。
二 しほみちて。風なぎぬ。
こげよ/\。/\/\。
やよふな子。
第七十一 鷹狩
一 しらふの鷹を。手にすゑもち。
馬にまたがり。いさめる君。
すはや狩場に。ゆけ/\/\。
二 雪は狩場に。ふれ/\/\。
犬はかり場を。かれ/\/\。
鳥ぞむれたつ。それ/\/\。
第七十二 小船
一 流るゝ水の。うへにもさく花。
こゝろせよや。をぶね。
底にもはなのかげ。
二 渕瀬もみえず。そらより散花。
こゝろせよや。をぷね。
袖にも花の浪。
第七十三 誠は人の道
一 まことは人の。道ぞかし。つゆな
そむきそ。其みちに。
二 こゝろは神の。たまものぞ。露な
けがしそ。そのたまを。
第七十四 千里のみち
一 千里の道も。足もとよりぞ。始まれる。
葉末の露も。積れば渕と。なるぞかし。
二 雲ゐる山も。塵ひぢよりぞ。なれりける。
書よむ道も。ことわりのみは。ひとつなり。
第七十五 春の野
一 いつしか雪も。きえにけり。
梅さく野辺に。いざゆかん。
二 みどりに草も。もえぬれば。
わかなつむ子も。うちむれて。
三 柳のいとも。なびくなり。
こゝろをのべに。あそばまし。
第七十六 瑞穂
一 蒼生の。いのちの種と。かしこき
神の。たまへるたねぞ。
二 採る手もたゆき。山田の早苗。
ゆたけき秋の。たのみもしるし。
三 わづかにのこる。門田のいねを。
苅るまで残れ。夕日のかげも。
四 ことしの稲の。初穂をとりて。
新嘗つかへ。神をぞまつる。
第七十七 楽しわれ
一 たのしわれ。まなびもをへ。
日もくれぬ。あすもまた。
朝とくより。学ばまし。かくて
年月。たえせざらば。月の桂
をも。われぞをるべき。
二 うれしわれ。ふみよみはて。
ひもくれぬ。あすもまた。
朝とくより。勉めまし。かくて
とし月。撓まざらば。龍の腮
なる。玉もとるべし。
第七十八 菊
一 庭の千草も。むしのねも。
かれてさびしく。なりにけり。
あゝしらぎく。嗚呼白菊。
ひとりおくれて。さきにけり。
二 露にたわむや。菊の花。
しもにおごるや。きくの花。
あゝあはれ/\。あゝ白菊。
人のみさをも。かくてこそ。
第七十九 忠臣
一 嗚呼香ぐはし。楠の二本。あゝ絶せじ。
みなと川。浪の音も。身にぞしむ
なる。其あはれその功績。忠臣
嗚呼忠臣。兄弟の人。忠臣あゝ
忠臣。たぐひなや。
二 嗚呼かぐはし。花の二もと。あゝうるはし。
芳野やま。ちりはてゝ世にこそ残れ。
そのうたと。そのまこと。忠臣
あゝ忠臣。兄弟のひと。忠臣嗚呼
忠臣。たぐひなや。
第八十 千草の花
一 千草の花は。露をそめ。野中の
水は。月やどる。そまらぬいろと。空の
かげ。はかなきものか。よの中は。
二 錦をよそふ。萩の花。もみぢを
さそふ。夜はの霜。夢野のあとゝ。
消ゆかば。木枯ばかり。あれぬべし。
三 はかなきものを。誰めでん。きえゆく
ものを。たれとはん。跡あるものは。筆
の花。かをりをのこせ。後のよに。
第八十一 きのふけふ
一 きのふけふと。思ひしを。春は過て。
夏来ぬ。雁はかへり。燕きぬ。君は
ゆきて。かへらず。かへれ/\。/\とく。
あはれ/\。わが友。花は散りて。あと
もなく。空しき枝に。風ふく。
二 松は常磐。竹は千代。人の世のみ。
つねなし。雪にほゆる。薬さへ。人の
世には。かひなし。かへれ/\。/\とく。
あはれ/\。わが友。君をおきて。友
もなし。たちつゝゐつゝ。わがまつ。
第八十二 頭の雪
一 草木にのみと。おもひしを。春秋
とほく。へだゝれば。隔てぬ君が。
頭にも。ふりけるものか。雪と霜と。
二 面のなみを。みあげても。久しき
としは。しられたり頭の雪の。光り
にも。みえけるものを。高き齢。
第八十三 さけ花よ
一 さけ花よ。さくらの花よ。
のどけき春の。さかりの時に。
さけ花よ。桜のはなよ。
二 ふけかぜよ。春風ふけよ。
さきたる花をちらさぬほどに。
ふけ風よ。はるかぜふけよ。
三 なけ蛙。やよなけかはづ。
すみゆく水の。にごらぬ御代に。
なけかはづ。やよ鳴け蛙。
四 なけ鳥よ。うぐひすなけよ。
さきたる花の。さかりの春に。
なけとりよ。鶯なけよ。
五 やよ人よ。ひと/\うたへ。
鶯かはづ。うたをぱうたふ。
やよ人よ。ひと/\うたへ。
第八十四 高嶺
一 たかねをこえて。
日はいでにけり。
わがなすわざを。
たすけむため
に。日はいでに
けり。
二 つき日のかげは。
わが身のまもり。
空しくなすな。
しばしのひまも。
つとめよはげめ。
第八十五 四の時
一 よつのとき。ながめぞ
つきぬ。春ははな。
おりなす錦。あきは
月。ますみのかゞみ。
なつごろも。かとりも
すゞし。冬のあさけ
雪もよし。ひとの
世の。たのしきものか。
神の恩。国のおん。
君の恩。わするな人。
第八十六 花月
一 花を見る時は。こゝろいとたのし。
心たのしきは。花のめぐみなり。
二 月をみる時は。心しづかなり。
こゝろ静けきは。月の恵なり。
三 よきをみて移り。悪をみてさけよ。
朱に交はれば。あかくなるといふ。
第八十七 治る御代
一 治る御代の。春の空。たゞよふ雲も。
はれにけり。晴るゝみそらの。その
雲は。めぐみの風に。はるゝなり。
二 治るみよの。春の風。千里の外に。
みてるなり。みてるめぐみの。風に
こそ。青人草は。さかゆらめ。
第八十八 祝へ吾君を
一 祝へ吾君を。恵の重波。やしまに
あふれ。普ねき春風。草木もなびく。
いはへ/\。国の為。わが君を。
二 祝へ吾国を。瑞穂のおしねは。野もせ
にみちて。しろかね黄金。花咲栄ゆ。
いはへ/\。君の為。わが国を。
第八十九 花鳥
一 山ぎはしらみて。雀はなきぬ。はや疾く
おきいで。書よめわが子。書よめ吾子。
ふみよむひまには。花鳥めでよ。
二 書よむひまには。花鳥めでよ。鳥なき
花咲。たのしみつきず。楽みつきず。
天地ひらけし。始もかくぞ。
第九十 心は玉
一 こゝろは玉なり。曇りもあらじ。
よる昼勉めて。みがきに磨け。
二 蛍をあつめて。まなびし人も。
ひかりは其まゝ。身にこそそはれ。
三 月影したひて。学びし人は。
ひかりをうけえて。世をこそ照らせ。
第九十一 招魂祭
一 こゝに奠る。君が霊。蘭はくだけて。
香に匂ひ。骨は朽ちて。名をぞ残す。
机代物。うけよ君。
二 此所にまつる。戦死の人。骨を砕くも。
君が為。国のまもり。世々の鑑。
光りたえせじ。そのひかり。
もくじへ戻る
注)推奨環境:XPかビスタ。14か17インチ。Explorer
5.5以降。なお、
バイオなど一部製品やマックで、縦書きレイアウト他機能不可。
注)掲載データの全ては、哥座(うたくら)が韻文空間を際立たせるための美学研究用として、
基データの幾分かを省略、かつ縦書き表記変換したものである。よって文学としての精確度を
求める向きは、しかるべき専門文学データへ直接当たることをお薦めしたい。
哥座(うたくら) 二千八年九月
|